ポスドク(博士号は取得したが、正規の教員職・研究職に就けない人のこと)に関する深刻な問題を解説します。
「ポスドク」という状態の、主な2つの問題
1「安定的な収入が得られないせいで、生活が不安定になりやすいこと」
- ポスドク状態だと、任期付きの研究の仕事しかできない
- 「契約時点から○年経ったら、その時点で契約が切られる」という雇用条件であるため、定期的に無収入状態になってしまう
- しかも、ポスドクとして採用されることにも同業者達との過酷な競争を強いられ、そもそも有償の仕事に就けないポスドクが多い
ポスドク問題の中で最たるものが
「生活が不安定」
というものです。
大学や研究機関に正式に所属している研究者や、企業に社員として所属して研究開発業務をしている人達を正社員だとすると、
ポスドクは派遣社員のようなポジションにあり、「安定して収入を得続けること」が困難です。
2「ポスドクが悲惨な状況になりやすいせいで、博士課程へ進む人が減ってしまう」
- 「大学院の博士課程まで進んで研究を続け、博士号を取得すると、ポスドク状態になって生活が困窮しやすい」という事実が、
ネットを介して大学生達の間に周知されるようになった- 「博士課程へ進んで研究を続けたい」「博士号を取得して、研究者として社会に貢献したい」という人達の希望を摘んでしまうことになっている
博士号取得後にポスドクになりやすい理由は、アカポスが少ないから
アカポス(アカデミックポストの略、大学や公的研究機関での常勤職員のポストのこと)の数が少なすぎることが、
博士号の取得後にポスドクとして生活が困窮する人が多いことの、根本的原因です。
大学の助教(教授・准教授・講師に次ぐ地位にある教員)は、アカポスに就くための最初の登竜門的な存在ですが、
助教の公募の時点で、競争倍率が少なくとも50倍程度であり、100倍以上であるパターンも決して珍しくない、という世界です。
助教になれた後も、学術論文を発表し続け、他の助教達よりも優れた実績を残すことが助教から講師へ昇格する方法であり、
大学で講師・准教授・教授といったアカデミックポストに就くには、常に数十倍の競争倍率にさらされます。
アカデミックポストの数が少なすぎて、ほとんどの博士号取得者は大学教員や研究機関の職員に就くことができず、
大学を出た後に、任期付きの研究の仕事をしたり、フリーターや無職状態になることになります。
上記の2009年度の調査では、
ポスドクから正規職(任期無しの常勤職員)へ年内になることができた者の割合は、
男性で7.0%、女性で4.4%と、非常に低い数値になっています。
ポスドク状態は、「高学歴ワーキングプア」という問題を引き起こす
「高学歴ワーキングプア」とは、
有名大学卒という実績や、博士号という学位をもっているにもかかわらずに、高い学歴や優れた学位とは不釣り合いな劣悪な就職状況を強いられている人々を指す言葉です。
ポスドクは、高確率で高学歴ワーキングプアになります。
高学歴ワーキングプアという現象の、2つの問題点
せっかくの優れた学歴や優れた頭脳が、まったく活かされない
高学歴ワーキングプアという状態に置かれている人達は、
- 月収が10万円以下の、非常勤講師
- 派遣社員やフリーターのような非正規雇用者
- ニート(34歳まで)あるいは無職(35歳以降)
という、経済的に困窮しやすい状況に非常に高い確率で置かれています。
有名大学卒という優れた学歴や博士号をもっていること、長年の勉強と研究で蓄積された貴重な知識が、無駄に近い形になってしまっています。
高学歴ワーキングプアという問題は『日本が学問と研究を軽視していること』を浮き彫りにしている
高学歴ワーキングプアという問題が引き起こされる原因は主に、
- 企業側に「新卒者を社員採用することに固執していて、新卒ではないが修士号や博士号をもつ人材を受け入れようとしない」という事情があること
- 一部の企業を除いて、大多数の企業は「修士号や博士号をもつ人材を積極的に活用して、自社での研究・開発を進める」という土壌が備わっていない
というものです。
日本の経済力の発展には、個々の企業が競争力を伸ばしていくことが重要であり、
競争力を伸ばすために不可欠なことの1つが「商品・サービスの開発能力を高めること」です。
開発能力を高めるためには、調査と研究に長けた人物達(本記事で扱っている高学歴の人々のこと)を企業の業務で活用することが不可欠であり、
高学歴ワーキングプアが大勢いるという現実での状況は、日本企業の開発能力と日本の経済力が伸び悩むであろうことを示唆しています。
本ブログでの、高学歴なのに人生が上手く行かない人達についての記事↓も合わせてご覧下さい。
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